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神戸地方裁判所 昭和29年(ワ)1223号 判決

原告 池内信幸

被告 兵庫県布帛協同組合 外一名

主文

被告等は各自原告に対し金六十七万円及びこれに対する昭和二十九年十一月二十日から右完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告等の負担とする。

この判決は原告において各被告に対し金二十万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

原告は主文第一、二項と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として「被告組合は、昭和二十九年七月三十日、被告会社宛に金額六十七万円、満期同年九月二十八日、支払地及び振出地共に神戸市、支払場所兵庫県商工信用組合、なる約束手形一通を振出し原告は同年九月二十七日被告会社から右手形を拒絶証書作成義務免除の下に裏書譲渡を受け、現にその所持人である。そして原告は右手形をその満期に支払場所に呈示して支払を求めたところ、支払を拒絶された。よつて被告等各自に対し右手形金六十七万円及びこれに対する本件支払命令送達の翌日である昭和二十九年十一月二十日から右完済に至るまで年六分の割合による利息の支払を求めるため本訴に及んだ。」と述べ被告等の抗弁事実を否認した。〈立証省略〉

被告等は原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、被告組合は「原告主張の如き手形を振出したことはない。被告組合は被告会社の依頼により同会社のために手形上の保証人となる意思をもつて手形振出人欄を空白にしてその左寄りに記名押印して被告会社に交付したところ被告会社は被告組合の右記名押印を利用して手形を変造し被告組合を振出人とし、受取人欄に被告会社名を記入してこれを原告に裏書譲渡したもので、原告も右事情を承知の上で本件手形を取得したものであるから、被告組合を本件手形の振出人とする原告の本訴請求は失当である。」と述べ、

被告会社は「原告主張の事実は全部認める。然しながら本件手形は、被告組合の訴外商工組合中央金庫に対する債務金六十八万九千七百六十七円を被告会社において代位弁済を為したので、被告組合においてその償還義務の履行として被告会社に振出し交付したものであるところ、被告会社は振出人である被告組合において本件手形金の支払の可能性なきことを予見したが、金融の必要に迫られ、原告にその情を訴えて割引を依頼し、その際原告被告会社間に原告は右手形金を被告会社に請求しない旨の特約が為されたから原告の本訴請求は失当である。」と述べた。〈立証省略〉

理由

一、原告の被告組合に対する主張について。

甲第一号証(本件手形)の被告組合の記名押印が被告組合の記名押印であることは当事者間に争がないところ、被告組合は右記名押印は被告会社を振出人とする手形の手形保証をする意思で記名押印したもので、被告組合は本件手形の振出人ではないから被告組合を振出人とする原告の請求は失当であると主張するのでこの点について判断するに、甲第一号証の記載と証人陳木金の証言、井上宏(現在の被告組合代表者)の証人としての証言及び被告会社代表者田中勤本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く)を総合すると被告会社は被告組合の組合員であつて、被告会社が他から金融を得るについて、被告組合において被告会社のため、被告会社振出の手形に手形保証をすることとなり、被告組合は被告会社代表者田中勤の持参した手形用紙に振出人その他手形要件は被告会社に記載せしめる意思で、これを記載せず、振出人欄のやや左寄りに被告組合の記名押印を為しこれを被告会社に交付したところ、被告会社は右手形用紙の金額欄に金六十七万円、満期を昭和二十九年九月二十八日、支払地及び振出地を神戸市、支払場所を兵庫県商工信用組合、振出日を昭和二十九年七月三十日受取人を被告会社とそれぞれ記入補充したが、振出人についてはこれを補充せずして、かえつて被告組合の前記記名押印を利用して被告組合を振出人とし、被告会社が第一裏書人となつてこれを原告に裏書譲渡し、原告は右事情を知らずに本件手形を取得した事実が認められる。被告会社代表者田中勤本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は信用できず他に右認定を妨げるに足りる証拠はない。

右認定事実によると、被告組合には本件手形振出の意思はなかつたが、手形上の保証人として本件手形の表面に記名押印したこと、右手形が被告組合の意思に反して被告組合振出の手形として流通におかれたことが認められるけれども、甲第一号証(本件手形)には保証その他これと同一の意義を有する表示なく、単に振出人欄のやや左寄に被告組合の記名押印があるだけで、外観上振出人の署名と何等異るところなく形式的には完全に被告組合の振出した手形ということができる、かような場合には手形取引の安全のため右手形の善意の取得者たる原告に対する関係では、被告組合に振出人としての責任を認むべきものと解するを相当とする。また本件手形を目して右原告に対する関係では振出人の補充のない不完全な手形ということもできないし、変造又は偽造の手形として被告はその責任を免れることはできない、従つて被告組合の右主張はこれを容れることができない。

二、原告の被告会社に対する主張について。

原告主張の請求原因事実については当事者間に争いがない。被告会社は原告被告会社間に原告は右手形金を被告会社に請求しない旨の特約があつたと主張するけれども、本件の全証拠によるもこのような特約の存在は認めることができない。そうすると被告会社は原告に対し裏書人として本件手形金支払の義務があること明らかである。

三、すると被告等は各自原告に対し本件手形金六十七万円及びこれに対する満期後である昭和二十九年十一月二十日から右完済に至るまで手形法所定年六分の割合による利息の支払をなすべき義務があるからその支払を求める原告の本訴請求はすべて正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村上喜夫)

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